Helicobacter Pylori Outpatient
ピロリ菌に感染すると、多くのケースで胃粘膜が炎症を起こし、胃の痛みや不快感、吐き気を伴う慢性胃炎や胃粘膜の組織が減少する萎縮性胃炎へと進行していきます。
この萎縮性胃炎は「前がん状態」とも呼ばれ、胃がんの発症リスクが非常に高い病態です。そして日本人の胃がんの99%にピロリ菌が関与していることがわかってきました。胃がんの発症を防ぐ意味でも、ピロリ菌の除菌が大いに推奨されるところです。
ピロリ菌が胃壁に取り付くと、細胞を弱らせてしまう毒素を出し始めます。すると、菌を排除しようとして血液中の白血球やリンパ球が付近に集まってきます。
両者の戦いが激しくなると、胃の粘膜が炎症を起こして胃炎になったり、胃や十二指腸の粘膜が深くえぐられて消化性潰瘍になったりすると考えられます。
ピロリ菌の検査には胃カメラ検査を伴う方法と伴わない方法があり、それぞれ3つずつ、合計6つの方法があります。※当クリニックではピロリ菌検査を行っております。
内視鏡で胃の粘膜を少しだけ採取し、下記のいずれかの方法で検査します。
胃の粘膜を磨り潰し、ピロリ菌の発育環境下で5〜7日間培養して判定します。
ピロリ菌がもつ酵素の働きによってつくられるアンモニアの有無を調べます。
胃粘膜の組織標本に特殊な染色をし、顕微鏡でピロリ菌がいるかどうかを調べます。
ピロリ菌がもつ酵素の働きによってつくられる二酸化炭素の量を調べます。
ピロリ菌に対する抗体が、血液や尿に存在するか否かを調べる方法です。
糞便中にピロリ菌の抗原(細菌毒素や菌体成分)があるかどうかを調べる方法です。
ピロリ菌の除菌には、プロトンポンプ阻害薬(胃酸の分泌を抑える薬)および抗生物質を7日間にわたり服用します。プロトンポンプ阻害薬で胃酸の分泌を抑えておいてから、抗生物質でピロリ菌を除菌するのです。服用終了後から約1ヶ月後以降に除菌療法の効果を判定します。この方法による除菌率は、日本では70~90%と報告されています。最初の除菌療法でうまくいかなかった場合は、違う薬を使って再度、除菌療法を行うことができます。これにより、さらに90%以上の方で除菌が可能と言われます。
この除菌を行えば、感染期間が長きにわたっており、萎縮性胃炎の進んだ人も発がんリスクを3分の1以下に減らすことが可能です。
ピロリ菌は胃の中に生息する細菌です。子供のころに経口感染すると考えられています。衛生環境の改善とともに保菌者は減少していますが、それでも日本国内のピロリ菌感染者は約35%と言われています。
院長が救命センターで勤務しているころにピロリ菌のことがだんだんと分かってきました。胃・十二指腸潰瘍で吐血して運ばれてきた患者さんの胃を検査すると概ねピロリ菌に感染していました。ピロリ菌を退治(除菌)すると潰瘍の再発を予防できることも分かってきました。再発を繰り返す胃潰瘍から解放されることができるようになったのです。これらの功績で発見者はノーベル賞をもらいました。さらに胃癌、リンパ腫の一部、ポリープ、鉄欠乏性貧血、胃もたれ感などの症状を引き起こす機能性ディスペプシアなどにもピロリ菌の関連が指摘されてきました。
特に胃癌については濃厚な関連があります。まず、ピロリ菌のいない胃から胃癌が発生することは非常に稀です(1%前後であろうと報告されています)。ピロリ菌感染が判明し、除菌した人の胃癌発がん率は、除菌しなかった人の半分以下に低下するという報告が多くなされています。また早期胃癌を治療した後の胃癌発生は除菌によって1/3程度の抑制されることが示されています。
このように胃癌のほとんどにピロリ菌が関連しています。多くの場合、胃癌発生までに、慢性胃炎、胃粘膜萎縮の進行、胃癌発生と、やや長い経過を取ることを考えれば、早期の除菌でほとんどの胃癌を予防できる可能性があると推測されます。除菌した後の再感染は極めて低率であることも分かっており、一度除菌に成功すればその恩恵はずっと持続します。あらゆる年代で除菌を推奨していますが、出来るだけ早く除菌したほうがいいことは自明です。感染の成立は12歳くらいまでと言われていますから、中学校以降は検査・除菌が有意義と推定されます(保険診療ですから無症状の方の検査はできませんが)。埼玉生まれの院長自身は昨年除菌しました。遅くなってしまいしっかりと萎縮性胃炎まで進行しており、今後も胃癌を心配して毎年胃カメラ飲みます。後悔しています。東京生まれの妻は陰性でした。長男は21歳で検査を済ませて安心しています。
気になる症状のある方、検診のバリウム検査で胃炎を指摘された方、ご家族にピロリ菌保菌が判明している方や胃癌家系の方、一度ご相談ください。